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2005年度大会
日程および会場:
2005年 4月23日(土) 13:30〜17:30(受付開始12:40)
 会場  西5号館B1フロア
      4月24日(日) 9:30〜17:30(受付開始 9:00)
 会場  北1号館201・401教室

会 場: 学習院大学(東京都豊島区 JR山手線目白駅下車5分)
http://www.gakushuin.ac.jp/m_map/index2.html
参加費: (資料代)
 会 員 1,000円(ただし学生は800円)
 非会員 1,500円

■ 第1日目:総会および記念講演(西5号館B1フロア)
12:40  受付開始
13:30〜 □ 総会
16:00〜 □ 大会記念講演会
 ジョーコ・ウトモ(Djoko Utomo,インドネシア国立文書館館長)
  「過去・現在・未来の架け橋
     −現代アジアにおけるアーカイブズの役割−」
18:00〜 □ 懇親会(会場:学習院大学内・輔仁会館)

第2日目:自由論題研究発表会および企画研究会(北1号館201・401教室)
9:00〜 受付開始(北1号館201教室フロア)
9:30〜 □自由論題研究発表会
【会場1】
加藤雅久「建築技術史資料の収集・保存・活用における諸問題−建材産業史資料を中心として−」
研谷紀夫、藤原正仁、馬場章「近現代建築資料のデジタルアーカイブ−坪井誠太郎氏邸をめぐる一事例−」    
馬渕浩一「企業博物館所有資料のアーカイブに関する一考察−電力PR館における発電所建設記録映像を例として−」
前川佳遠理「オランダ戦争資料館におけるデジタルアーカイブズのデータ編成および記述、検索手段の試みについて」
高岩義信「大学共同利用研究機関のアーカイブズ−その設置と運用の条件と課題について−」
田嶋知宏「アメリカにおけるアーカイブズ利用サービスに関する歴史的検討」

【会場2】
坂口貴弘「文書管理規程の分析:国の機関の場合」
平井孝典「個人情報保護の期間について」
本多康二「自治体アーカイブズにおける公文書評価選別のための『業務/文書システム分析表』の作成について」
加藤聖文「近現代個人史料をめぐる今日的課題−調査・整理・公開の視点から−」
清水邦俊「地方凡例録における文書作成背景の解明について−近世地方文書の基本目録編成のために−」
柴田知彰「明治前期秋田県の文書管理制度の成立について」

15:00〜 □ 企画研究会【会場:北1号館201教室】
 イ・ヒョンジョン(韓国民主化運動記念事業会アーカイブズ アーキビスト)
  「記憶から記録された歴史へ−韓国民主化運動記念事業会アーカイブズの役割と展望−」
 佐々木和子(神戸大学文学部地域連携センター 地域連携研究員)
  「災害とアーカイブズ学−阪神・淡路大震災の経験に学ぶ−」
参加者数:204名

◎大会時における研究集会活動として、<記念講演>、<自由論題研究発表会>、および<企画研究会>の三つを用意することとした。
 <記念講演>と<企画研究会>は次のように企画された。昨年の設立大会シンポジウムは、日本と世界におけるアーカイブズ学の位相と課題を多様な角度から照らし出し、日本においてアーカイブズ学を拓いていくことの意味を広く確認するものであった。委員会では、それをうけて次に必要なことは、その課題を探求するフィールドや基盤の確認、あるいは構築ではないかと考えた。すなわち、アーカイブズを必要とする人や組織の存在、その活動を支えるアーカイブズ学の(教育・研究の)必要性、この両者の十分な確認あるいは検討をするものとした。そのため、特に企画研究会には「欠くべからざるアーカイブズ、求められるアーカイブズ学」というテーマ名をつけることとした。これにより、記念講演には、オランダや日本による植民地支配とアーカイブズ(資料)の喪失を経験しているインドネシアから国立アーカイブズ館長のジョーコ・ウトモ氏をお招きした。また、企画研究会では、韓国における民主化運動史料を保存・活用するために、法律によって設置された韓国民主化運動記念事業会アーカイブズのアーキビスト、イ・ヒョンジョン氏、そして阪神淡路大震災に際して、史料救出にボランティアとして取り組み、地域住民のアーカイブズ意識に向き合いながら研究を続けてきた佐々木和子氏に報告をお願いし、テーマを探求することとした。
 一方、<自由論題研究発表会>は、会員による多様な研究活動の発表の場を設ける趣旨で設定した。これにあたっては、委員会が10月に公募を開始し、12月10日までに受け付け、審査をしたのち、1月末に結果を発表したものであることを申し添える。
2005年度大会自由論題研究発表会
建築技術史資料の収集・保存・活用における諸問題 −建材産業史資料を中心として−
加藤雅久(居住技術研究所)

 建築物は建材の集合体でもあり、建築の歴史を技術史的な観点から示すには、建材の変遷を示しておく必要がある。特に最近保存対象となりつつある近現代建築物は、建材の開発と普及の一過程としての価値があり、建材資料を系統立てて保管し参照できる環境が求められている。  現在、建材資料は主に2つの環境で分散保管されている。1つは、建築技術の変遷を扱う研究者により研究の過程で収集されている。もう1つは、建材メーカー所有の自社資料である。資料は、図面や技術資料のほか、製品サンプルや解体部材といった実物も有用であり、多様な形態が共に保管される必要があるが、保管環境は不十分で、特に企業では散逸・滅失が生じている。このため資料の所在情報を共有し資料の有用性の認識を共に高めていく必要があるが、情報を共有するためにはシソーラスの作成も必要である。  さらには資料の散逸・滅失に対処する緊急避難的な一次保管の仕組みをつくることも求められている。


近現代建築資料のデジタルアーカイブ
−坪井誠太郎氏邸をめぐる一事例−

研谷紀夫(東京大学大学院学際情報学府博士課程)
藤原正仁(東京大学大学院情報学環 科学技術新興調整特任研究員)
馬場章(東京大学大学院情報学環)

 東京大学大学院情報学環 歴史情報論研究室では、2004年度に、大正時代の住宅建設である坪井誠太郎氏邸に関する建築資料のデジタルアーカイブ化を行った。坪井邸には現存する家屋そのものだけでなく、邸宅の新築やその後の増改築に関する設計図や見積書・請求書・領収書などの書類が残されており、これらに基づいて当時の住宅建設の過程を把握することが可能である。そこで上記のプロジェクトチームは、家屋そのものの情報とともにこれらの文書資料のアーカイブ化が必要であると考えて、現物資料の整理・保存を行うアーカイブと文書資料を閲覧利用するためのデジタルアーカイブの構築を行った。デジタルアーカイブ化にあたっては画像資料をデジタル化するだけなく、資料に使用されている用語を体系化したオントロジーツリーを構築して、用語どうしの関係性などを明らかにした。さらに、資料どうしの関係性を明示するインターフェイスを作成して、邸宅建築に関わる人やモノの動きを網羅的に把握できるデジタルアーカイブの構築を試みた。本発表では、建築資料アーカイブの構築の基本方針、方法論、評価などについて述べる。


企業博物館所有資料のアーカイブに関する考察
−発電所建設記録映像を一例として−

馬渕浩一(名古屋市科学館主任学芸員)

 企業博物館の代表的な存在である電力PR館の多くに、発電所建設記録映像が残されている。しかし、昭和30年代の高度経済成長期に収録されたものが多く、原版フィルムの劣化防止のためのデジタル化が叫ばれている。この記録映像は、当初、電力会社のプロジェクト記録として制作されたものである。その後、発電所建設工事の視察者へのガイダンス資料として利用され、さらに、電源開発の理解増進や環境低負荷への取り組みをPRするために一般公開された経緯を持つ。  今日、発展途上国などへの技術移転や循環型社会実現のための旧技術の再利用などの視点から、旧式の発電所建設の技術、技能の記録保存の意義が認められつつある。発電所建設記録映像は論文や図面に残らない過去の技術、技能を伝える情報源として有用であり、デジタル化に留まらずフレームごとの画像データベースを構築することが不可欠である。  本発表は、時代の変化に伴う発電所建設記録映像の意義・価値の変化と、技術、技能の保存継承を目的としたデジタルアーカイブの役割について報告するものである。


オランダ戦争資料館における
デジタルアーカイブズのデータ編成および記述、検索手段の試みについて

前川佳遠理(国文学研究資料館アーカイブズ研究系)

 本報告の目的は、世界的な潮流のひとつであるデジタル・アーカイブ化の一端として、オランダのアーカイブズのデジタルカタログ化の作業過程の紹介と報告とにある。  NIOD(オランダ戦争資料館:アムステルダム)所蔵「インドネシア関係コレクション(Indische Collection)以下、本コレクションとする」は、特に日本占領期、独立戦争期インドネシアに関しては世界に屈指のコレクションである。中核となるコレクションは約240メートル、シリーズナンバーが付されたアイテムナンバーは80,000におよぶ。2002年4月より、在オランダ日本大使館を通じた村山友好基金の支援によって、2005年5月末をめざして公開されるべく、新たな目録化・データベース編成を進めている。これまで不可能であったクロス・レファレンスを可能とするため、目録をデジタル化し資料タイトルの検索システムを構築する。 史料へのアクセスは、これまでキーワード(人物名、主題)を列挙したインデックスが存在するのみであり、研究所内の本コレクション専門の1名のアーキビストによる知識とガイド(カード目録と分析)に依存していた。また、アーカイブズの内部構造は完全には明らかでなく、論理的構造を持つシステムの構築が望まれていた。  本コレクションのデジタル・プロジェクトに先立ち、NIODは所蔵する他のコレクションについて基盤研究として試験的調査を行っている。このパイロット研究は、「単純化へのテクニーク・主要ライン・エントリー」として報告書にまとめられた。本コレクションのデータベースでは、ISAD(G)を採用したうえで、EADの持つ個々のアイテムの位置関係をコレクション全体に位置付ける特色を、データ編成によって実現する試みを行っている。すなわち、各アイテムに関する記述を、フォンドもしくはサブフォンドレベルの記述と相互にリンクさせ、上位下位構造内を自由に往来可能とするツリー状の構造に再編成した。その際、以前、紙媒体の目録に記述されたアイテムおよびシリーズナンバーを維持しつつ、出所機関・組織・収集家に関する包括的な調査と記述をもりこみ、「マルチユーザー公文書情報システム(MAIS)」として統合を行った。たとえば、ごく短い判決理由文を含めて基本的には非公開であったオランダBC級戦犯裁判記録が目録化され、以前はまったく相互検索が不可能であった証拠資料との関連が生成される。  本データベースの成果は、ISAD(G)の形式を取りながら、従来、相互リンクによってコレクションの構造の明確化をはかったこと、また、検索の初心者にもデータベースの内部構造への理解を容易にすること等があげられるであろう。


大学共同利用研究機関のアーカイブズ
−その設置と運用の条件と課題について−

高岩義信(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所及び国際・社会連携部史料室)

 国立大学共同利用研究機関の法人化によって説明責任がより重く課せられ定期的な評価が義務づけられる。また研究の将来計画を企画するにあたり過去の事例を参考にして検討する必要が認識される。アーカイブズはその基礎となる資料を提供するものとして関心を集めている。大学共同利用研究機関を基盤とする総合研究大学院大学はそれらの研究機関のアーカイブズ機能の充実と利用の促進をはかるプロジェクトを提案している。そのような研究機関のアーカイブズを運用する条件および課題としては(1)関連する研究分野の研究活動の記録の収集整理(2)研究機関の運営に関わる法人文書等を含む記録資料の保管管理(3)近過去あるいは現代(同時代)史の資料の収集方法としてのオーラルヒストリー(4)アーカイブズの効果的な利用の推進、の四つが課題として存在する。とくにそれぞれの研究機関のアーカイブズは(1)を中心にするか(2)に重きを置くかの選択をしなければならない。それぞれに応じて異なった課題があることが認識される。


アメリカにおけるアーカイブズ利用サービスに関する歴史的検討
田嶋知宏(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)

 本発表においては、主としてアメリカの州におけるアーカイブズ利用サービスの変遷に焦点をあてて検討した。  最初の本格的な州立アーカイブズの設置された1901年以降は、たんなる保存機能を中心とする施設ではなく、次第に利用者サービスを提供する施設への道を歩むことになった。しかし、利用者サービスに対する本格的取組みは、アメリカアーキビスト協会が設立される1930年代を待たねばならなかった。その後、1950-1960年代には、本格的な資料の展示の取り組みに見られる、州立アーカイブズの利用者サービスの充実が図られた。  1970-1980年代には、児童生徒や障害者に向けたサービス提供の必要性が認識されるとともに、アーキビストの役割に対する認識も変化していった。1990年代初頭には、コンピュータを活用した利用サービスへの期待が高まった。その後も、情報通信技術の高度化に見合ったものへとアーカイブズのサービス内容は多様化している。  アーカイブズ利用サービスの変遷からは、「利用サービス拡大の方向性」や「利用者像の変化」、「アーキビストの役割の変化」という3つの特徴が見出された。


文書管理規程の分析
―国の機関の場合―

坂口貴弘(慶應義塾大学大学院文学研究科 図書館・情報学専攻博士課程)

 アーカイブズの管理と現用文書の管理とは密接な関係を有することが日本でも指摘されて久しいが、文書管理の実態、なかでもその制度的基盤である規程類(以下「文書管理規程」と称する)についての調査研究は不十分である。国の機関においては近年、‐霾鷂開法の施行、e-JAPAN戦略、J現餞浜に関する不祥事の表面化、ぁ峺文書等の適切な管理・保存・利用等のための懇談会」の開催、等の要因によって文書管理のあり方が見直されつつあり、「文書管理法」(仮称)の制定も議論されている。その実現のためにはまず、文書管理の現状を把握するための基礎的調査が不可欠となろう。本研究では、国の各機関の文書管理規程の内容別、機関別の定量的な比較を通して、同規程に求められる要素とは何かを考察した。とりわけ「保存」に分類される条文については、より詳細な分析を行った。


個人情報の不開示
―国立大学法人における著作物(卒業論文)の扱いについて―

平井孝典(小樽商科大学百年史編纂室)

 非現用文書の受け入れ先のない国立大学の年史編纂では、現用文書に含まれる個人情報の扱いが大きな問題になる。扱われる法人文書が全て現用であり、従来の年史編纂のようにそれぞれの組織でプライバシーに配慮するだけでなく、情報公開法等に基づいて扱う対象を考える必要もある。本発表では、大学の文書に含まれる多様な個人情報のうち、卒業論文の扱いについて整理しておきたい。情報公開法が制定される前は、行政文書の中の著作物について、「著作者人格権」と「知る権利」の問題として、地方・高等裁判所レベルで争われたものがある。しかし、情報公開法制定時に、著作権法も改正され、18条3項第2号で、国立大学法人に提供する著作物について、国立大学法人が当該著作物を公衆に提供し、又は提示することに同意したものとみなす、とされ、公表権の調整が図られた。にもかかわらず、卒業論文を明確に個人情報とし不開示としている国立大学が2割ある。行政法、著作権法での考え方や審査会での個人情報に関する答申の一例を踏まえつつ、卒業論文を開示または不開示とした各大学による説明・考え方を確認しておきたい。


自治体アーカイブズにおける
公文書評価選別のための『業務/文書システム分析表』の作成について

本多康二(本渡市立天草アーカイブズ)

 本渡市立天草アーカイブズは、本年開館3年目を迎え、地域史料、行政資料の収集、調査・整理、保存、公開に向けて作業を進めているところです。行政資料については、平成12〜16年度移管公文書を段ボール箱で約2000箱受け入れ、表題目録作成・パソコン入力を終了しました。その内1300箱については、内容目録作成及びパソコン入力も終っています。本渡市役所から出る全ての公文書を受け入れ、内容調査まで行った上で評価選別する方針です。  評価選別にあたり、「評価選別基準」「評価選別細目基準」「評価選別実施要項」「評価選別の手順」の案を運営審議会の指導助言を受けて作成しました。しかし、基準によって一点ごとに公文書を評価選別する方法だけでなく、市役所各課係の業務や文書システムの構造全体を調査・研究する必要があるとの結論に達しました。具体的には、本渡市役所各課係ごとに「業務/文書システム分析表」を作成するという方法です。  今回は、市役所の課係の中で、来年民間移譲となり、その文書の取扱がが問題となっている「養護老人ホーム松風園」を取り上げて、その課係の変遷、事務分掌の変遷とそれに対応した公文書群の分析をとりあげて報告したいと思います。評価選別基準と細目基準によって一点ごとの評価選別だけをしていてもきりがない。古文書目録の構造分析のように、市役所各課のシステム分析を行って初めて「あらゆる人が」、「公平で」、「長期にわたる」、「ゆるぎなき」評価選別が行えるという当館運営審議会の意見を踏まえて、松風園の分析を開始しました。  松風園は、昭和26年生活保護法によって本渡町の養老施設として開設されました。昭和29年には、合併して発足した本渡市の福祉事務所管轄で「養老院」となりました。昭和38年8月からは老人福祉法による「養護老人ホーム松風園」となり、昭和49年12月からは福祉課保護係の管轄となりました。昭和53年には「養護老人ホーム松風園」として独立しています。松風園の法的立場や組織、名称の変遷だけでも種種の変化があります。これに伴った事務分掌の変遷はもっと多いものとなるでしょう。その事務分掌に対応した文書綴りの変遷消出は大変複雑なものだと思われます。このように松風園の公文書の歴史をかたちづくる構造を知ることなしに、その評価選別は難しいと考えられるのです。  「業務/文書システム分析表」は、縦に業務分析の軸、横に文書システムの軸を持ちます。業務分析の軸には、大分類で「管理運営」「共通業務」「個別業務」を並べ、それぞれに合わせた事務分掌とそれぞれに合わせた文書シリーズを当てはめていきます。文書システムの軸には、松風園が開設されてからの歴史と文書シリーズそれぞれの発生消滅合体分裂の歴史を矢印で記入します。一番最後には、文書シリーズごとに評価選別ガイドラインを設け評価選別と解説を記入します(○が「原則保存」でアーカイブズ保存、×が「原則廃棄」で適正廃棄、△が「保留」で一点ごとの評価選別・サンプル保存)。ガイドラドンは、業務分析と文書システム分析の結果を、評価選別基準や評価選別細目基準と照らし合わせ判断します。  「業務/文書システム分析表」を作成することによって、今まで長年の経験と専門的知識によってそれぞれ行われ、公平性や普遍性に疑問が残っていた評価選別が、より科学的に行われるようになると考えられます。


近現代個人史料をめぐる今日的課題
─調査・整理・公開の視点から─

加藤聖文(人間文化研究機構国文学研究資料館 アーカイブズ研究系)

 近年の近現代史料をめぐる議論において、その中心となっているものは行政文書をめぐる問題である。確かに、現状における文書館業務において行政文書の電子情報化や評価選別、個人情報をめぐる公開のあり方といった解決が急がれる課題は山積しており、これらの問題に対する関心が現職者を中心にして高いことはやむを得ないことではある。  しかしながら、ただ行政機関が作成した文書をいかに一般者に対して公開するのかという姿勢は、文書館などの史料保存利用機関の果たす役割の一面でしかない。ましてや、地域の歴史を後世へ伝えるという役割をも担うならば、行政機関が作成した行政文書のみならず個々人が残した個人的記録をいかに収集し保存・公開するかという問題も重要であるといえよう。  だが現実には、文書館などが調査収集する多くは、「古文書」といわれる近世文書が中心となっており、また調査収集の対象も近世文書が中核となる家分文書、とりわけ名望家層のものが中心となりがちである。そして、このような傾向となる背景には、自治体史編纂における調査収集のあり方が大きく影響を与えていることを無視できない。  このような現状において、本来はその地域の歴史を語るにおいて極めて重要であるにもかかわらず、史料保存利用機関からも自治体史編纂からも見落とされているのが他ならぬ近現代の個人史料なのである。そして、人的・社会的な様々な要因が絡みながら、近現代個人史料そのものの性格を明らかにし、それに適った調査収集手法や整理方法、公開基準を議論することすら行われないほどの立ち後れが改善されないまま、古文書のような歴史的価値を付与されずに急速に喪われていく危機に直面しているのである。  近代以降の社会制度は、明らかにそれ以前の前近代とは異なるものである。それは、端的に言えば「個」の確立であり、史料もまた家業などを別とすれば一個人において完結するものである。そのような社会構造の変化を考慮に入れずに前近代から近代までを「家」単位で一括りにすることは、史料(近現代の)そのものの性格を見落とす危険性をはらんでいる。また、あらゆる社会層がものを書くようになる近代以降において、特定の名望家層に偏重した史料の調査収集だけではなく、無名の人々の歴史を丹念に収集し後世へ伝えていくことこそ地域の歴史を伝えるものの役割ではなかろうか。  地域にとって近現代の個人史料をいかに収集し保存していくのかは大きな課題であるが、それと同時に、地域から切り離された個人史料も存在し、またそれに適った調査収集方法を考える必要があることを忘れてはならない。すなわち、近代以降の個人史料の特徴は、個の自立の他に地域との繋がりが希薄なものが膨大にあるということである。この場合は、地方出身者でありながら東京などの大都市へ出るか、さらには外地と呼ばれた植民地へ渡るなどといった近代以降進展する広範囲な人的流動性を体現した人々が残した史料をいうが、なかでも、官僚や職業軍人、経済人、文化人などの場合、あきらかに活動の中心は地元ではなく多くは東京に集中する。したがって、こうした個人の史料は地域性が希薄であるため、地域の歴史を伝えるといった目的には合致しにくい側面があり、このような史料は現在において最も落ち着き先が見つからない史料といえよう。  さらに、近現代史料は調査・収集だけでなく、公開のあり方も重要な問題となっている。2005年4月1日から施行された個人情報保護法に関連して、個人史料が持つプライバシー性が今後大きな課題となろう。この問題については行政文書をめぐる議論は盛んであっても個人史料についての問題はほとんど指摘されていない。ただし、個人の手紙や日記に大きく依拠してきた近現代史研究にとって極めて深刻な問題といえる。  本報告は、このような近現代個人史料をめぐるさまざまな問題点を踏まえて、問題提起的な内容を中心とし、最終的には、日本において必要とされるのは、国レベルにおいては行政文書を扱う国立公文書館の他に、地域に属さない個人史料を扱う個人史料館のような機関の設立、地域においては行政文書と個人史料の双方を扱う総合的文書館の整備の必要性といった提言も含めて、近現代の個人史料をめぐる議論の切っ掛けとなることを目的としたい。


地方凡例録における文書作成背景の解明について
−近世地方文書の基本目録編成のために−

清水邦俊(千葉県文書館)

 文書の整理において、段階的整理方法が提唱されて、序々に広まりつつあるが、その中の一段階として文書群の内的構造分析を行なった「基本目録」の作成が提案されている。  しかし、文書整理を扱う現場からは、文書群の構造分析の正確さへの疑問や分析の困難さが言われている。また、近世古文書学の研究において、地方文書の内容的研究はあるが、文書がなぜその文書が作成されてきたのか、どのような職務から発生したのかについては研究されていない。  上記の問題点とともに、構造分析の他の視点を提示したい。それは、現在残っている(残された)文書の内容から、当時の状況を分析していくことは歴史学研究の手段である。従って、文書の内容から作成背景を解明していくことも一手段である。しかし、反対の視点として、当時の職務・文書規程(に相当するもの)から分析するという視点も必要なのではないか。  本報告では、近世地方文書の基本目録の編成に向けて、地方凡例録を素材として、文書がどのような時に、何のために作成されたのかを明かにし、それを基本目録の編成時に活用あるいは参照できるようにし、併せてこの考え方を用いた基本目録の実証も行ないたい。


明治前期秋田県の文書管理制度の成立について
柴田 知彰

 明治前期、特に明治4年(1871)の太政官三院制の確立から18年の太政官制廃止までの期間を対象に、秋田県の文書管理制度の成立につき編纂保存を中心に整理を行う。行政機関における近代的な文書管理制度の成立は、公文書原本による記録保存の採用による。文書の集中管理、さらに編纂時の類別部目制と文書の保存年限制を伴った。従来の説では、近代的な文書管理制度が各府県に成立するのは明治18年の内閣制創設以降とされている。しかし秋田県では、太政官制の時代、明治8年10月に文書管理の方法が原本による記録保存に転換され、翌9年にかけて文書の集中管理、類別部目制および保存年限制が成立した。なぜ秋田県では他府県に先駆けた時期に近代的な文書管理制度が成立したのか、内務省の全国記録保存事業と太政官の国史編纂事業の双方との関連から考察する。  各府県の文書管理制度の形成過程では、その地域の事情や条件の違いによる較差が大きいと思われる。今後、各府県の事例を持ち寄り比較検討してみることが、「府県庁文書」を理解するために必要ではないか。
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