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The Archivist第9弾 大月英雄さん(滋賀県立公文書館)

Posted on2023年9月22日

【プロフィール】

2008年4月~2011年3月 関西学院大学大学院文学研究科博士課程前期課程

2011年4月~2014年3月 関西学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程(満期退学)

2011年9月~2013年3月 滋賀大学経済学部附属史料館リサーチアシスタント

2013年4月~2020年3月 滋賀県県政史料室歴史的文書事務取扱嘱託員

2020年4月~2023年3月 滋賀県立公文書館歴史公文書専門職員(会計年度任用職員)

2023年4月~現在    滋賀県立公文書館主任技師(公文書管理)

 

【主な著書・論文】

・『歴史公文書が語る湖国:明治・大正・昭和の滋賀県』(編集・執筆、サンライズ出版、2021年3月)

・「「結社の時代」を生きる:伊香西浅井郡相救社の設立」(大門正克・長谷川貴彦編著『「生きること」の問い方:歴史の現場から』日本経済評論社、2022年1月)

・「歴史学徒とアーキビストのあいだ:地方公文書館の現場から」(『歴史学研究』第954号、2022年9月)

・「公文書管理条例と向き合う公文書館:滋賀県立公文書館を事例として」(宮間純一編『公文書管理法時代の自治体と文書管理』勉誠出版、2022年10月)

 

1 アーカイブズの世界に興味を持たれたきっかけについて教えてください。

私のアーカイブズとの本格的な出会いは、博士後期課程に入学して間もない2011年秋、当館の前身である滋賀県県政史料室を訪れたときのことです。大学院で私は日本近代史を専攻し、明治初期に滋賀県で設立された「伊香相救社」という共済団体の研究を進めていました。修士論文は、主に長浜市の江北図書館が所蔵する当該結社の史料を用いてまとめてみたものの、結社設立の背景や地域住民への影響など、地域社会のなかの位置づけについて、十分考察を深めることができませんでした。そこで、地域情報の宝庫といえる県の歴史的文書(歴史公文書)を閲覧するために、県政史料室に足しげく通うようになったのです。

その後、県政史料室で嘱託員(週31時間勤務)の募集が出されたため、自身の研究の役にも立つだろうと思い受験したところ、幸いにも採用となり、2013年4月から同室で勤務することになりました。職場では、歴史的文書の利用審査や廃棄予定文書の評価選別、展示・講演会の企画など、公文書館機能のあらゆる業務を担ってきました。

そのまま現在に至るまで、アーキビストの仕事を続けることに決めたのは、次第に歴史学の社会的裾野を広げる上で重要な仕事だと考えるようになったからです。日頃公文書館には、専業の研究者だけでなく、学校教員や土地家屋調査士、鉄道ファンなど多様な利用者が、さまざまな資料を見に来られます。これまで私が学んできた歴史学の知見は、目当ての資料を探し出すお手伝いや、資料の内容を紹介するうえで役に立つことが多く、歴史資料と社会を結ぶ重要な役割を担っていることに気付かされました。もちろん歴史学の知見だけで、あらゆる業務がこなせるわけではありませんが、その重要な基礎力にはなっていると思います。

よくも悪くも発展途上の業界であった点も、裁量の余地が大きく、仕事のやりがいにつながっています。アーキビストの専門性の中核部分といわれている、歴史公文書の評価選別1つとっても、機関によって考え方はさまざまで、自分の職場に合ったやり方を見出さなければなりません。こういう創造的な実務の世界に魅力を感じてきました。

 

2 これまで取り組まれてきた、研究やお仕事についてご紹介ください。

これまでの実践報告としては、「公文書管理条例と向き合う公文書館」(宮間純一編『公文書管理法時代の自治体と文書管理』)や、「歴史学徒とアーキビストのあいだ」(『歴史学研究』第954号)などがあります。いずれも歴史学と関わりの深い媒体で、現場のアーキビストとともに、歴史学関係者にアーカイブズの世界をもっと知ってほしいという思いでまとめたものです。

滋賀県立公文書館編『歴史公文書が語る湖国』は、明治期から昭和期までの本県のあゆみをわかりやすく紹介した、当館の開館記念誌です。本書をきっかけに所蔵資料を利用してもらえるよう、すべての掲載資料に請求番号を付与し、資料紹介のページも設けるなど、公文書館の刊行物であるという特徴を意識しました。

近年の仕事のなかでは、教育機関との連携事業が印象に残っています。先ほど紹介した『歴史公文書が語る湖国』を、県内の中学校・高等学校に配布しようと教育委員会事務局に相談したところ、その活用方法も示した方がよいだろうという話になり、本書を用いた学習指導案集を作成することになりました。原稿は現場の先生方に執筆いただき、21年度と22年度の2回、当館でとりまとめました。22年度は、この指導案を用いた公開授業やシンポジウムも開催することができ、歴史公文書の利活用の新たな可能性を感じることができました。

 

3 滋賀県は、公文書管理条例の制定、常勤の専門職員の確保など、この間めざましく体制の整備を行われました。この体制整備についてご苦心されたこと、また現状をどのように捉えているかお聞かせください。

2008年6月から本県では、文書管理・情報公開を所掌する県民情報室内に「県政史料室」を設け、明治期~昭和戦前期の歴史的文書(歴史公文書)約9千冊を一般の利用に供してきました。その後、2011年4月の公文書管理法の施行を受けて、本県でも2013年6月の県議会で、条例制定や公文書館設置の必要性を訴える議員質問がなされます。この質問をきっかけに、県は条例制定の検討を進め、2015年7月に公文書管理に関する有識者懇話会を設置しました。同懇話会での議論を踏まえ、県は2016年9月に「未来に引き継ぐ新たな公文書管理を目指して(方針案)」を策定し、歴史的文書の利用請求権の創設や、公文書の統一的な管理ルールの確立、歴史的文書の利便性の向上と情報提供の充実など、新たな公文書管理ルールの整備に向けて取り組む考えを示しました。

しかし庁内では、多忙ななかで新たな事務が発生することへの不安や、抽象的で実務上の取り扱いが不明瞭といった懸念の声が多く、しばらく条例化の議論は平行線をたどることになります。そのため県は具体的運用の考え方を示すとともに、庁内の幹部層による検討の場を設けて議論を深め、少しずつ合意形成を図っていきました。そしてようやく2019年3月に公文書管理条例および関連条例が県議会で可決成立し、翌20年4月にこれらの条例が施行され、県立公文書館が開館を迎えることになりました。

一方で、常勤の専門職員の確保は、開館時には実現できませんでした。県政史料室時代と比べて、会計年度任用職員(週31時間勤務)の報酬月額は、13万円台から最大約19万円まで増額されたものの、開館にともなう体制強化は認められなかったのです。本県の場合、常勤専門職員の確保が本格的に検討され始めたのは、2022年9月の県政150周年を機に準備が進められた滋賀県史の編さん事業においてでした。長期間にわたって編さん事業の事務局を担うためには、歴史学に関する専門的知識・技能を身に着けた職員がどうしても必要となったのです。その一方、県史編さんは時限的な事業ということもあり、任期付職員での対応も併せて検討されていました。最終的に常勤専門職員の確保が認められたのは、県史編さん事業を含めたかたちで、公文書館の長期的運営を担う専門職員が必要という判断が下されたからです。採用区分も「公文書管理」(行政技術職)とされ、県史編さんに限定せず、継続的に公文書館専門職員を採用・配置する道が開かれました。

アーキビスト認証の仕組みができた現在でも、館独自で常勤専門職員を採用しているのは、行政事務職員が判読できない古文書の所蔵機関か、自治体史編さんの名目がほとんどのように思います。その意味で、今回「公文書管理」の採用区分が設けられた社会的意義は小さくないと考えられ、その名にふさわしい専門職員になれるよう、しっかりと公文書管理の知識と技能を身に付けていきたいと思います。さらなる体制の強化は困難が予想されますが、今後ともさまざまなかたちで、公文書館の役割を具体的に示しながら、人員確保に努めていくつもりです。

 

4 全史料協など、全国的な団体にも関係されてきました。アーカイブズ界の状況をどのようにみておられますか。

2023年7月の全史料協近畿部会30周年記念例会で、元・京都府立総合資料館の渡邊佳子さんが報告されたご自身の経験について、とても関心をもって聞いていました。アーキビスト制度が未整備のなか、渡邊さんたちは「自ら経験したことの事例を持ち寄り、意見交換をしながら、各々の研鑽を深め、専門職としての在り方を模索して行った」そうです。私自身も、全史料協の近畿部会運営委員(2019~22年度)や大会・研修委員(21年度~)を務めるなかで、自身の視野を大きく広げることができたという思いが強くあります。自分の職場だけで考えられることは限りがありますが、会活動を通じて全国の先輩方のお仕事に学びながら、できることを少しずつ広げることができたように思います。特に2022年度の滋賀大会では、委員や参加者の皆様から、多くのご意見・ご質問をいただき、日頃の業務を見つめ直すよい機会となりました。

日本ではアーキビストの専門性がまだまだ自明でないからこそ、それぞれが自分なりの専門職像を形成する場として、今後とも大きな役割があるものと考えています。今年度は、滋賀県が初めて近畿部会の会長事務局を務めることになりましたので、会員や社会のニーズをうまくくみ取りながら、運営できるよう努めていきたいと思います。

 

5 滋賀県では新たに県史の編纂もはじまりました。そのような中でのこれからのご活動や抱負について教えてください。

今回の県史は、滋賀県が誕生した1872年(明治5)から2022年(令和4)までの150年間が主な対象となり、通史編4巻、資料編2巻のほか、概説・図録・年表、各1巻の全9巻の刊行を予定しています。伊藤之雄(京都大学名誉教授)編集委員長のもと、①政治・行政(戦前)、②政治・行政(戦後)、③産業・経済、④環境・琵琶湖、⑤社会・福祉、⑥教育・文化・民俗の6つの専門部会を設けています。近現代史のみを扱う予定ですが、15年間の長期にわたる事業となります。

日本では自治体史編さんをきっかけに、アーカイブズ機能が整備・強化される事例が少なくありません。本県でも、編さん事務局は公文書館内に置かれており、今回の事業は、大きな機会ととらえています。事務局は主に、県史編さんに必要な資料の収集と情報発信を担うことになります。これまで手薄だった私文書の収集・公開や講座・講演会の企画、本県のあゆみにかかるデータベースの整備など、「県史」という編さん物にとどまらず、県民の皆様がさまざまなかたちで、公文書館をご利用いただける仕組みを整えていきたいと思います。

特に現在、京都新聞記事データベースを用いて、滋賀県に関する重要記事のPDFを収集・整理しているのですが、そのうち著作権の保護期間が過ぎたものについては、見出しの目録(Excel形式)を当館ウェブサイトで公開しようと考えています。幸い同社の理解も得ることができましたので、2024年にはひとまず1881年~1900年の見出し(20年間分)の公開を予定しています。議会事務局が所蔵する『県会日誌』(県議会議事録)も、少しずつ撮影を進めており、将来的には画像のデジタル公開ができるよう努力していくつもりです。

県史編さん業務は、一般的にイメージされるアーキビストの職務とは距離がありますが、アーキビストが関わるからこそできることも多いと考えており、幅の広い仕事ができるアーキビストになれるようがんばりたいと思います。

 

6 最後に、これからアーキビストを目指される方、アーカイブズに関心をもっている方へのメッセージをお願いします。

アーキビスト認証の仕組みが始まったとはいえ、まだまだ専門職としてのアーキビストの職務や役割は発展途上にあると思います。その一方、だからこそ裁量の余地が大きく、とても創造的な仕事だと感じています。取り組む仕事を最初から枠にはめるのではなく、他の職場やアーカイブズ学の知見を参考にしながら、いろいろ試してみるとよいでしょう。残念ながら、現状の雇用環境では安定した職につく道は険しいですが、これからアーキビストの地位を確立していくためには、個々の職員がそれぞれの職場で、質の高い業務をこなしていくことが重要だと思います。ぜひ多くの方々にこの業界に関わってもらえると嬉しいです。

 

 

大月英雄さん、ご協力ありがとうございました。

滋賀県立公文書館さんの一層の発展に期待しております。

担当 福島幸宏

 

 

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