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The Archivist第3弾 蓮沼素子さん(大仙市アーカイブズ)

Posted on2021年7月29日

【プロフィール】

2003年4月~2012年3月 宮城県公文書館公文書等専門調査員(非常勤)

2012年4月~2013年3月 国立公文書館アジア歴史資料センター調査員(非常勤)

2012年4月 学習院大学大学院アーカイブズ学専攻博士後期課程進学

2013年4月~2017年3月 江東区役所総務部総務課公文書等専門員(非常勤)

2017年4月~ 大仙市役所総務部総務課アーカイブズ(正規専門職)

【主な業績】

「近現代文化アーカイブズの地元への継承と活用:現代舞踊アーカイブズとまんがアーカイブズを事例として」(『GCAS Report』Vol.4、2015年)

「地方自治体におけるアーカイブズ・ネットワーク構築の現状と課題」(『宮城歴史科学研究』76・77合併号、2016年)

「東北初の市町村公文書館『大仙市アーカイブズ』」(東北大学国史談話会『国史談話会雑誌』第61号、2020年12月、91-99頁)

【国立公文書館認証アーキビスト】2021年1月1日認証

 

1.アーカイブズ(公文書館)と関わるきっかけ ―アーカイブズとの偶然の出会い―

・アーカイブズに関わるきっかけは何でしたか?

筑波大学の学生時代に中野目徹先生の近代史の授業を履修し、公文書解読や国立公文書館を見学したことがあり、アーカイブズ、アーキビストという仕事があることは知っていましたが、アーカイブズを意識するようになったのは、アルバイトとして関わった仙台市史編さんの公文書整理に参加した時です。

当時、仙台市史編さん室の専任職員・嘱託職員に東北大学出身者が多く、東北大学の院生がアルバイトに行くのが「ルート」になっていて、専攻する時代に関係なく私の同学年の3分の2が参加していました。修士1年の時にちょうど旧宮城町の公文書整理が始まり、当時大学院の先輩であった吉田真夫さん( 現山口県文書館専門研究員)から「仙台市史編さん室で資料整理の仕事をしないか」と誘われ、そこから4年半ほど市史編さん室でアルバイトをしました。きっかけは偶然でした。

 

2.アーキビストへの関心 ―東日本大震災を経て芽生えたアーキビストとして責任

・アーキビストを目指したきっかけは何ですか? 

修士課程を修了後、「将来をどうしようか」と迷っていた時に、宮城県公文書館が資料整理の経験を持つ人を探しており、仙台市史編さん室の上司を介して非常勤の専門職として採用されました。この当時もアーキビストになりたい、アーカイブズに関わりたいとの積極的な気持ちはなく、生活のためには何かしら仕事をしないといけないという気持ちでした。

宮城県公文書館に就職してみると、当時は元県職員・教員が資料整理に当たっていましたが、ボールペンを使用し酸性紙の用紙を資料に挟むなど専門的な知識がないまま作業していました。気づいた点について「こうしたらどうですか」と提案していくうちに、徐々に楽しくなっていきました。また、仙台市史編さん室とは異なり、宮城県公文書館では利用者と接する機会が多く、レファレンスや閲覧業務を通じて、少しずつアーキビストの重要性を感じるようになり、自ら研修にも参加させてもらいスキルアップしていきました。アーキビストを目指したというよりも気づいたらアーカイブズにどっぷりつかって抜けられなくなっていたという感じですね。

さらに一歩進んでアーキビストとしてやっていかなくてはならないと思ったのは、東日本大震災の時だと思います。東日本大震災により、人命だけでなく公文書や古文書も多数失われている状況で、被災地の公文書館として何かしなくてはならないと思いましたが、人数も少なく館自体も被災していたこともあり、何もできませんでした。とくに非常勤という立場では、主体的に動くことも難しい状況でした。すでに自分はアーキビストだと思って仕事をしていましたが、この経験からアーキビストが非常勤である危うさを感じ、もっと専門的な知識を持って発言できる立場にならないと真のアーキビストにはなれないと思い、これが安藤正人先生のいる学習院大学のアーカイブズ学専攻に進学するきっかけになりました。

それまでは仕事だからやっていたという面もありました。非常勤でしたので転職しようと思ったことも何度かありましたが、これまで携わってきた仕事を人任せにしていいのかという使命感がありました。だからと言って強くやりたいと思っていたわけではありませんが、東日本大震災以降は、関わった以上は自分が何かしなくてはならない、一歩進んでアーキビストとしてやろうと考えるようになりました。

自身の経験を振り返ると、徐々に専門職としての自覚を持つようになり、東日本大震災で専門職の必要性を感じ、同時に非常勤であることの無力さを感じる機会でもあったと思います。

 

3.アーカイブズにおける仕事内容

・アーカイブズではどのような仕事をされましたか?

震災の翌年、学習院大学進学と同時に国立公文書館アジア歴史資料センターの調査員に採用されて上京しました。しかし、現物の資料を扱う仕事がしたいと思い、2012年から江東区で公文書等専門員になりました。江東区の場合も非常勤でしたが、専門職の待遇が確立していたので、提案を受入れてくれる体制がありました。結果、経験してきたことを活かして、現用文書管理を含めた仕事をさせてもらえました。元東京都公文書館の水野保さんと水口政次さん、現東京大学文書館准教授の森本祥子さんという先輩たちがやってきたことがベースにあり、いろいろ発言しても受け入れてもらえたのではないかと思います。

江東区では、基本的にこれをやってくれというような形ではなく、自分で考えて提案していく形でした。例えば、江東区では関東大震災と戦災により戦前の公文書はほとんど残っていませんが、震災復興や建物疎開の公文書がいくつか残っていました。しかし、酸性劣化も激しく、ダンボールの文書箱を使っており、環境もあまりよくありませんでした。そこで少しでもいい環境にできればと思い、京都大学大学文書館が採用していた比較的安価な中性紙保存箱の導入を提案し、脱酸処理も実施しました。また目録の採録項目も任せていただき、歴史公文書のデジタル化、公文書の評価選別方法や情報公開制度による公開に向けた準備なども、職員と相談しながら提案できました。

前任者の業務を引き継ぎ、公文書館設置に向けたアーカイブズ業務のベースを作れたのではないかと考えています。

 

・同じ非常勤専門職でも江東区が働きやすかったようですがその要因は何ですか?

ポストの位置づけが違ったと思います。普通、非常勤職員は正規職員の下で働くと思いますが、江東区では最初に入ったときに「先生として来てもらっています」と言われました。正規の職員との関わり方の面で大きな違いがあったと思いますが、業務を進めるうえでは非常にやりやすかったです。非常勤であっても専門職として確立されていた、という点が大きかったです。

また月15日勤務で、調査や研究に時間が割けるという点も、学生でもあった私にはメリットがありました。他方で、雇用待遇面で「ずっと働けるのか」という不安はありました。

 

・アーキビストとして印象に残る仕事は何ですか?

宮城県公文書館に在職している時、夏休みに小学生がご両親と一緒に公文書館を訪れ、小学生も調べられる地域のことはないかと相談を受けました。そこで明治時代の小学校の図面を出してお子さんが通っている小学校の調査を提案しました。それまでアーカイブズは年配の利用者が使うところであり、小中学生が使うイメージがありませんでしたが、この時、アーカイブズは身近な存在であり、子供が来ていいところ、年齢に関係なくすべての人が利用できる場所である、と認識が変わりました。大仙市アーカイブズでの広報普及活動でも、この経験を活かして、小中学生向けの講座を夏休みに実施しています。

夏休みの子ども向け講座の様子

 

・アーキビストとしてやりがいは何ですか?

アーカイブズがなくとも行政は回りますが、あることで必要な公文書へアクセスしやすくなり、業務の効率がよくなります。またアーカイブズがないと業務の証拠書類が散逸してしまい、分からなくなってしまうこともあると思います。市民側に立って考えると、地域の情報はアーカイブズに聞けば分かるという環境が整っていることが重要だと思います。その中で、自分の知識が職員の業務や利用者のレファレンス対応などで役に立った際には、やりがいを感じます。

本当は、学習院大学大学院を修了したら宮城に帰って被災地のために何かしたいとの思いがありました。結果的に大仙市(秋田県)に採用されましたが、今は東北のために何かできることがあるのではないかと思っています。仙台市をはじめ東北でのアーカイブズ設置に関して助言を求められる機会もあり、遠回りでしたが東北、宮城県のアーカイブズ発展に少しは貢献できているのではないかと感じています。

 

4.アーキビストについて

・アーキビストとはどのような人だと思いますか?

自分の経験で言えば、知識が乏しく勉強している段階では、専門職としてはまだまだ未熟であると思います。知識・経験の蓄積により、他の職員に教えられるようになった時、ようやく専門職であると言えるのではないでしょうか。そして自ら自発的に業務を企画し、責任ある立場になってはじめて、アーキビストとして独り立ちできるのではないかと思います。

各アーカイブズに少なくとも正規の専門職が数名必要だと思っています。主体的に企画・実行でき、何かあったときに対応できる体制が必要です。非常勤職員という立場では、いつまで在職しているかもわからず、また個人情報の開示などにも責任は持てません。正規の専門職という立場は動く原動力になると思います。

他方で全員が正規の専門職になれるかと言うと、現在の地方公共団体の状況では難しいと思います。また研究に時間を割きたいなど非常勤の方がいいという人もいます。現状の問題は、正規の専門職を望む人も非常勤にならざるを得ないことであり、正規・非正規を選択できる環境が必要だと思います。

 

・アーキビストに身につけてほしい能力は何ですか?

基本的な知識は前提です。そのうえで、アーキビストには柔軟性が必要だと思います。知識そのままでは活かせず、理想だけではなく現実にも対応できる能力が必要です。私自身は別にやりたいこともあり、いろいろなアルバイトを経験しましたが、最初からアーキビストだけを目指していたら狭い世界になっていたと感じています。

 

・登録アーキビスト資格を取得していない理由は何ですか?

学芸員・会計士などは仕事をする上で資格が必要です。資格は仕事を得るためのものであって、現状では採用時にアーキビストの資格は求められません。私の場合、すでにアーキビストとして採用されているため資格は必要ないと考え、申請しませんでした。

最近、地方の小さなアーカイブズで、職員への研修や市民向けの講座、取材などでアーカイブズ、アーキビストの存在を知らない人たちに理解してもらう時に、アーキビスト資格は分かりやい説得力を持つのではないかと感じ、資格は重要ではないか、と思うようになりました。このことから、国立公文書館の認証アーキビスト制度については申請し、2021年1月1日付でアーキビストとして認証されました。

できれば司書・学芸員と同様に国家資格が望ましいと思っています。またこれからアーキビストになりたい人には必要な資格ですし、資格の充実とその受け皿としての正規ポストが必要になります。

 

・尊敬するアーキビストは誰ですか?

前に名前を出させていただいた中野目先生、安藤先生は研究者として尊敬していますが、お二人にはアーキビストとしてではなく大学で指導教官としてご指導いただきました。そういう意味で尊敬する「アーキビスト」とは違います。江東区での私の前任者として先に挙げました第1回のインタビューでも紹介されています水野さん(元東京都公文書館)、そして水口さん(元東京都公文書館)、森本さん(現東京大学文書館)の3名は、実践の場での経験が豊富で、私も業務実績を参考にさせていただき、具体的な業務のことを相談させてもらいました。尊敬するアーキビストです。

 

・あなたの思うアーキビスト、アーカイブズの役割は何ですか?

地方公共団体のアーカイブズで勤務している経験から、アーカイブズには地域と記録(記憶)をつなぐ役割があると思います。大仙市をはじめ地方は過疎化・高齢化が急速に進行しており、記録散逸の危機に直面しています。そうした中で、母体組織の記録である公文書はもちろん、地域の記録の情報や所在を調査し、各家や団体での記録保存の支援を行い、場合によっては地域全体の文化資源として積極的に記録を収集・保存して公開していくことが、公的なアーカイブズとそこで働くアーキビストの役割だと考えています。

地域史料調査の様子

 

また、新型コロナウイルスの影響で、2020年春以降はさまざまなアーカイブズ業務が制限されています。そうした状況であっても、来館できない人へ向けてHPを活用した企画展の紹介や、メールやFAXなどによる閲覧申請の受付と複写資料の郵送(実費負担)サービスを行っています。地域を取り巻く変化に目を向けながら、アーキビストは市民や社会のニーズに応えられるよう、日々知識やスキルをアップデートしていく必要があると感じています。

 

大仙市アーカイブズHP

 

蓮沼素子さん、ご協力ありがとうございました。

インタビュー:2019年3月

聞き手及び原稿作成 倉方慶明(当会委員、当時)
2021年1月~7月 蓮沼さんによる修正加筆を経て掲載
担当 平野泉(当会委員)

 

 

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